shinjuku-PTA

伝統に根ざした臨海教室

一般財団法人 東京都立新宿高等学校
朝陽会

1 学校の概要

本校は、大正11年に東京府立第六中学校として開校、昭和25年に東京都立新宿高等学校と名称を変え、本年度創立97周年を迎える。
これまでの間2万6千余名の有能な人材を世に送り出し、多くの同窓生が各界で活躍している。新宿駅から徒歩5分という東京都の中心に位置していながらも、新宿御苑の四季折々の豊かな自然に囲まれた静寂の中、生徒達は勉学や部活動、行事などに若い情熱を燃やしている。
創立以来、「全員指導者たれ」という理念のもと、自主・自律の精神の高揚と人間尊重の精神の育成を目標とし文武両道の教育を実践してきた。
この伝統を継承し、さらなる発展をめざして平成15年度から「進学重視型単位制高校」として、再出発した。
平成16年度には、全教室冷暖房完備7階建ての校舎が完成した。また、平成19年6月東京都教育委員会より「進学指導特別推進校」の指定をうけ、名実ともに新たな歴史を刻もうとしている。

2 臨海教室実践の内容

(1)97年以上に渡る行事の継承
初代校長は、教育方針として知育・徳育・体育のうち、特に徳育・体育に重きを置き「質実剛健なる精神の涵養と、健全強壮なる身体の育成を生徒教育上の二大方針とする。」と提唱した。また、「学校、家庭、同窓、生徒が一体となった大家族主義」という理念を示した。その具現化のひとつとして創立間もない大正11年、夏季休業に入ると同時に第一回の臨海教室を実施した。

大正11年4月 東京府立第六中学校開校
     7月 千葉県安房郡西岬村塩見(現在千葉県館山市香谷区)付近の民宿に分泊。
        10日間の水泳訓練実施。
大正12年6月 塩見に1600坪の土地を購入。宿舎を建築「塩見朝陽舎」とする。
     7月 1年141名、2年137名 霊岸島から船2隻で塩見に出発。
        この時代は軍艦で館山に入り、その後行進にて朝陽舎に向かったようだ。
     9月 関東大震災で塩見朝陽舎倒壊。
大正13年7月 塩見朝陽舎再建。水泳訓練再開。
   *倒壊後再建された塩見朝陽舎は「馬小屋」と呼ばれた粗末な建物だった。
    その建物での生活にあ然とする生徒が多かった。
    創設時は全生徒が7〜10日位の生活を送っていた。近くの民宿にも分宿。
    本部は「竜松亭」という旅籠におかれた。臨海教室は戦時色が濃くなる昭和17年まで行なわれた。
昭和22年7月 50名の希望者によって、臨海教室再開。
        その後、生活事情の好転と共に参加者が増加。
昭和25年   東京都立新宿高等学校と改称。男女共学になる。(女子100名入学)
昭和32年   本年度入学の1年生(新12回生)から全員参加の臨海教室になる。

    *この当時の交通手段
        昭和36年まで汽車と路線バス。
        昭和45年まで館山港入港の東海汽船と路線バス。
        昭和53年まで房総西線(現在の内房線)と路線バス。
        昭和54年から貸し切りバスを利用。現在に至る。

昭和37年8月 都の指令により、三宅島大噴火にともなう避難者を塩見朝陽舎に収容。
昭和42年3月 塩見朝陽舎改築。「館山寮」と改名。
昭和62年   女子生徒増加のため、女子寮側に離れを増築。
平成17年   女子寮改築
平成18年   男子寮改築
平成28年   食堂および厨房に冷房設備を設置
本校における臨海教室は、戦争による4年の空白と平成23年の東日本大震災の年の見送りはあったものの、90年以上の長きに渡り続けられ、生徒の健全育成に多大な効果をあげてきた。
また、その間一件の事故もなく実施されてきた伝統ある行事である。
(2)臨海教室の目標・日程・水泳練習の概要
○1目標
生活面については、他とのコミュニケーションが希薄な現在の生徒に、本校の教育目標の一つである人間尊重の精神の育成という観点から、以下の5つの目標を設定している。
・友達をつくろう:現代的な生活から隔絶された環境に身を置き、起居を共にしながら会話を中心とした交流を促進する。
・進んで働こう:集団生活において、いま何が必要か、何をすべきか、ということを自主的に判断し、行動する姿勢を養う。
・公共物を大切にしよう:伝統ある館山寮を新宿高校の財産として認識することを通じて、公共物に対する姿勢を養う。
・礼儀作法を身につけよう:臨海教室の実施にあたり、さまざまな方々に支えられていることを認識し感謝の気持ちを持って行動する。
・他人に迷惑をかけないようにしよう:全体の中の一員であるということを認識し、自分本位の行動を慎む。

水泳練習については、次の2つの目標を通じ、自然の豊かさと厳しさを知り、自然に接する姿勢を養うものである。 ・3日目の大遠泳:一人では出来ないことも、集団で協力することによって達成できる、という体験をする。この遠泳を克服することによって、生徒の中に自分に対する自信が生まれる。

○2日程
2クラス単位で2泊3日ずつ、4期にわたり実施されている。初日の午前8時学校集合から最終日4日目の午後5時新宿駅解散まで約57時間すべて団体行動である。

   <3日間の日程>
     第1日目:開校式 水泳練習 HR
     第2日目:水泳練習 小遠泳 HR
     第3日目:遠泳 閉校式 退寮式

*水泳練習の最も効果的な時間配分、HR活動の充実、安全面の配慮などを基本に設定されている。起床、奉仕活動、食事、練習、HR活動などすべての行動は、振鈴の合図によって行われる。このことが、自らが判断し行動する姿勢を養うことにつながり生活面さらには水泳指導面の目標を達成することに大きく寄与している。

○3水泳練習の概要
 第一目標は、遠泳の完泳である。
事前に学校のプールで泳力判定を行い、泳力別練習班をつくり、十分な事前指導、練習を課すとともに、現地においても泳力に応じた効果的な練習を行っている。泳力のある生徒は水泳部の卒業生が中心となって指導にあたり、苦手な生徒の指導は保健体育科の教師があたる。
3日目午前に実施する遠泳は、前日午後の小遠泳(約30分)完泳者のみ参加することができる。寮の前の浜をスタートして、約1km離れた香の浜までの片道を泳ぐ。遠泳の際には、本校所有のボート6艘、船外機付き和船2艘、船外機付きゴムボート1艘、地元から借り上げた和船2艘を用意し、生徒を取り囲むように配慮し、安全確保のため万全を期している。

(3)体験を通じて育成される「生きる力」
生徒は1日目を終えた時点では、これまでに体験したことのない厳しい練習に対する戸惑いと、自分の泳力に対する不安の気持ちでいっぱいになる。しかし、2日目を終える頃になると事前に学校のプールで行ってきた練習が、海でも通用することをはっきりと知り、自信を持てるようになる。その結果、3日目の遠泳ではほとんどの生徒が泳ぎきり、大きな感動を自分のものとする。
指導にあたる保健体育科の教員と水泳部の卒業生は、厳しい体験の後にある達成感をこれまでの長い経験から確信しているため、その指導にはいささかの躊躇もない。初めのうち生徒は教員や卒業生に依存する姿勢が大きい。しかし日程をこなす中で、徐々に課題を克服し、自律的な自己を見出していく。また、それがさまざまな人々との関わりを通じて成し得たことであるということを理解する。
このような教育活動は生きる力の育成そのものであり、その後の学校生活にも極めて大きな影響を与えている。

(4)教職員と卒業生が一丸となった取り組み
臨海教室は本校を代表する行事であり、学校が一丸となって取り組んでいる。実施においては、一学年の担任が往復の引率、HR指導、貴重品管理、レクリエーション指導、奉仕活動指導、練習監視、寮内の生活指導を担当している。また、4期にわたる臨海教室は、事前の準備を含めると14日間に渡る。保健体育科の教員はこの間寮に泊まり込み、寮長、総務、会計、渉外、水泳指導、船管理、食事指導、寮舎管理を担当している。
また、実施においては、水泳部の卒業生の協力が不可欠である。多くは大学生で、各期約15名、毎年のべ60名ほどが協力している。遠泳の日にはそれ以外にも多くの卒業生やライフセイバーが自発的に各地から駆けつける。高校1年生にとっては、まさに兄や姉といえる存在であり、さまざまな面で生徒を支えることができる存在でもある。彼らは生活、水泳の両面にわたり、生徒の指導にあたっている。昼夜を問わず生徒と共に行動し、緊密な情報交換のもと、教員とともに臨海教室の運営を全面的に支えている。毎年高い完泳率をあげてきたことや、これまでの長い期間1件の事故を起こすことなく運営してこられたのは、まさに教育活動の成果を体現している水泳部の卒業生の功績でもある。

3 まとめ

臨海教室はテレビや冷房など今となっては当たり前の生活を離れて寝食をともにし、担任、保健体育科の教員、卒業生、そして友との語らいの中、新宿高生としての自覚が生まれる。まさに「海臨教室を通して初めて真の新宿高生になる。」と言っても過言ではない。遠泳を完泳した後の自信に満ちた逞しい生徒達の表情を見るにつけ、この行事の素晴らしさを実感する。開校以来、事故ひとつ無く行われているこの行事を誇りに思うと同時に「学校、家庭、同窓、生徒が一体となった大家族主義」という初代校長の理念を実現する行事でもあり、新宿高校ある限り、続けてほしいと願っている。

なお、常日頃から掃除や草刈りをはじめとするさまざまな寮の管理やお手伝いを、地元の方々にお願いしている。また、調理担当の方々、地元の方々との交流も、生徒の人間形成にとっては欠くことのできないものとなっている。更に、館山寮は学校の先生方、保護者の方及び朝陽同窓会の方で運営する一般財団法人東京都立新宿高等学校朝陽会の不断の努力で維持管理されている。このように、臨海教室の実施はさまざまな方々のなみなみならぬご協力に支えられていることを、あらためてここに特記したい。